はじめに
「手前みそ」という言葉があるように、昔はどこの家庭でも自分でみそを仕込み、自分の家のみそが一番と自慢したのだそうです。私がみそ自分で作るようになったのは、福島県のおばちゃん(お姉さんと言わないと怒られるか?)がやっている居酒屋で、みそ汁がおいしいのにびっくりしたことがきっかけでした。
「このみそ汁おいしいね」と言うと、「わかる?これ、自家製みそで作っているの」ということでした。ちょくちょくこの店に通っているうちに、「実家からみそを持って帰って来たから、分けてあげる」と、自家製みそをいただけました。そのみそを使って自分でみそ汁を作ってみると、やっぱり美味しい!自分でみそを作ってみたいと思うようになりました。
その時に思い出したのが、活力鍋のレシピ集にみそ作りがのっていたことでした。引っ張り出してみると、大豆を活力鍋で煮て、米麹と塩と混ぜるだけ。これはいけると思い、インターネットでも色々と調べました。多くの説明が数kg単位で作って甕で熟成させる方法を説明していましたが、その中にひとつ、1kg程度をビニール袋で熟成させる方法が紹介されていました。これなら一人暮らしにちょうどいいし、試しにやってみることにしました。そして、私も「手前みそ」になりました。
みなさんの「手前味噌」作りに、私の方法が参考になれば幸いです。
みその材料
みその材料は、大豆、米麹、塩、水の4つです。それにできれば種みそがあるといいです。詳しくご説明しましょう。
(1) 大豆
今回使ったものは、右の写真の北海道帯広産です。スーパーで買ってきました。スーパーによって置いている品物は違いますが、だいたい100円/100gのようです。有名デパートの食品売場には、有機栽培ものも売られていますが、値段は200円/100gぐらいで、スーパーで売られているものの約2倍になります。有機栽培ものを使ってみたこともありますが、できあがりに劇的な差はないように感じました。大豆はそこまで凝らなくても十分のように思います。
(2) 米麹
今回は使ったものは、乾燥タイプで、スーパーで買いました。私の近所のスーパーでは、この㈲糀和田屋のものと、㈱伊勢惣の2種類が見られます。これも値段は100円/100gあたり。安い味噌は50円/100g以下でも売っていることを考えると、手作りは、節約にはならないということです。
インターネットで調べると、生の米麹を使う方が美味しい味噌ができるとされていますが、後でお話しますが、種みそに歴史が積み重ねられているので、乾燥タイプでも十分と思います。
(3) 塩
私はにがりが含まれている塩を使っています。この方が味が複雑になるのではないかと思いますが、気分の問題かもしれません。この時に注意しなければいけないのが、にがりの分だけ、食塩相当(NaCl)が少ないということです。今回使ったものは下表のように、92.1%がNaClです。NaClが少な過ぎると雑菌が繁殖しやすくなるなので、塩分の少ない白みそを作る場合には注意が必要です。
(4) 水
作り方のところでも説明しますが、大豆は煮る前に一晩、水につけます。大豆は水を吸って、1.5倍くらいに膨らみます。つける水が重要ということで、水道水は一度沸騰させ、冷ましたものを使いましょう。
私は美味しいお茶を飲むための鉄瓶を、みそ作りでも使っています。ちなみに鉄瓶の中は、使うごとに写真のように湯垢がたまっていって、これが水をマイルドにする効果を発揮するそうです。この育てる感じが好きです。
(5) 種みそ
種みそは、前回仕込んだみそを使います。これを入れることで、熟成が速くなります。それから一口に麹菌とか乳酸菌といっても、色んな種類があります。私のみそには福島のおばちゃんのところのものや、 ㈲糀和田屋のもの、㈱伊勢惣のもの、私の家の空気中に浮遊しているものなどが、息づいているはずです。この前回のみそを次に引き継ぐことで、その家の個性が形成されていき、「手前みそ」になるのです。
初めてみそを作られる方は、種みそなしでも構いません。自分でみそを作っている人から分けてもらってもいいでしょう。注意しなければいけないのは、スーパーで売っているみその大部分は死んでいるみそで、種みそにならないということです。それを区別するポイントは、以下の2点です。
① 原料に「酒精」が入っていない
流通途中に熟成が進んで味が変わったり、発生したガスで膨らまないようにするために、酒精(アルコール)で麹菌を殺すのだそうです。
② ガス抜きの孔が開いている or 冷蔵で熟成を止めている
生きているものは熟成が進んでガスが出るので、それを逃がす孔を開けていると、パッケージに記載されています。また、酒精を加えずに熟成を止める方法(冷蔵)で流通しているものは、密閉してあっても生きているみそです。
材料の量
大豆、麹、塩の配分によって熟成に必要な時間が変化し、できあがりの味も変わります。下の表は、活力鍋のレシピ集に載っていた例です。強風味噌のような塩分が少ない配分の場合は発酵が進みやすく、短時間(といっても1~2ヶ月はかかりますが)で食べられるようになります。塩分が少なく雑菌が繁殖しやすいので、あまり長く熟成させるのには向いておらず、2〜3ヶ月のうちに食べたほうが良いとも言えます。
越後味噌や仙台味噌のあたりは塩分が多いので、6〜12ヶ月熟成させる必要があります。塩分が多いので雑菌が繁殖しにくいですが、味噌の熟成も時間がかかります。熟成がゆっくり進むということは、大豆のタンパク質が分解されていく過程でできるタンパク質の種類が多く、それだけ奥深い味わいになるということかと思います。
京風味噌やもろみ味噌のようなものがお好きな方もいらっしゃれば、仙台味噌のような濃いものがお少な人もいらっしゃると思いますが、初めてみそ作りにチャレンジする場合は、下の表の「私の配分」のあたりからチャレンジいただくのが良いかと思います。みそを仕込んでから半年以上も待たないと食べられないと、ちょっとおっくうになってしまいますが、1~2ヶ月なら待てるのではないでしょうか。 そして味噌作りに慣れてきたら自分の好きな配分を探し、手前味噌に育て上げていただければと思います。
最近私が作っている材料や配分は、「手前味噌、今年もヘルシー志向で玄米麹仕込みです」をご覧ください。
手順
(1) 大豆を水に漬けて一晩おく
まずは大豆の量をきちんと量りましょう。流水で洗ったら、ボールに入れて水を張ります。写真のように、結構多めかなと思うぐらいでOKです。乾燥大豆は水を吸って、一晩で約1.5倍くらいに膨らみます。なお、以下の説明で出てくる写真は、乾燥麹2袋(400g)を使ってし込んだ際の状況です。
(2) すり鉢、すりこぎ、ボールを熱湯消毒する
みその熟成中に雑菌が繁殖しないようにするためには、作る段階から雑菌が入らないように注意する必要があります。すり鉢とボールには熱湯を入れ、10分くらいおきます。すりこぎには熱湯をかけ、ガスコンロであぶって殺菌するとともに、乾燥させます。
(3) 大豆を煮る
私の使っている活力鍋(圧力鍋)では、大豆が170gなら水250g(大豆がひたひたに浸かるぐらい)を入れて強火にかけ、おもりが振れ始めて1分後に火をとめ、あとはインジケーターが落ちるのを待つだけで、15分もあれば煮終わります。この活力鍋、調理圧力が146kPaで、世界最高クラスなんだそうです。調理圧力が高いと調理温度が高くなり、それだけ短い時間で調理ができるということになります。
この活力鍋がなかったら、コトコトと3〜6時間もかけて大豆を煮なければいけません。私はゆる生活を楽しんでいますが、さすがにそんなに時間がかかると味噌を自分で作ろうということにはならなかったかもしれません。この活力鍋、時短料理とか、牛すじを煮たりとか、色々なところで活躍しますが、味噌作りにも欠かせないものになっています。
さて、煮終わったら煮汁は取り分けておきます。(6)の塩切り麹とつぶした大豆を混ぜる工程で、味噌の粘り気を調整するために使います。この煮汁、もし余ったら、これは出来立ての豆乳です。美味しくいただきましょう。
(4) 塩切り麹を作る
大豆を煮ている間に、乾燥麹をほぐし、分量の塩と混ぜます。乾燥麹の粒一つ一つに塩がコーティングされるように、手でしっかり揉みます。この作業を丁寧にすることで、味を均一にすることはもちろん、塩分の薄いところをなくすことで、雑菌の繁殖も防止します。
(5) 大豆をつぶす
煮た大豆をすりつぶします。私はすり鉢で押しつけるようにしてつぶします。フードプロセッサーを使ったこともありますが、水が多めになってゆるくなり過ぎてしまうので、すり鉢の方が良いと感じています。少し豆の形が残っているものも残し、手作り感を出したりします。指でもつぶれるので、塩切り麹と混ぜる段階でも、調整できます。大量に作る場合は、ビニール袋に入れて、足で踏みつぶす方法もあるようです。
(6) 塩切り麹とつぶした大豆を混ぜる
つぶした大豆の温度が35℃くらいになったら、塩切り麹と混ぜます。40℃以上では麹菌が死んでしまうので、特に夏に仕込むときには、うちわであおいだりして温度を下げてやります。写真では温度計を入れていますが、手でかき混ぜられる熱さまで冷ませば良いです。人間が耐えられる温度であれば、麹菌も死なないということです。
この作業も(4)の塩切り麹を作るときと同じように、塩分濃度が均一になるように、丁寧に混ぜます。この時、(3)で取り分けておいた大豆の煮汁を少しずつ加えて、団子が作れるぐらいの硬さにします。煮汁で足りない時は、一度沸騰させた水道水かミネラルウォーターを使います。
(7) 味噌団子を作り、ビニール袋に詰める
あとはジップロックなどのビニール袋に詰めるだけですが、空気が入らないようにする必要があります。そこで、ハンバーグと同じ要領で味噌団子を作り、それを押さえつけるようにしてビニール袋に詰めます。昔ながらの方法は、甕に詰め込む方法ですが、塩分控えめで1〜2ヶ月で熟成されるレシピだし、乾燥麹2袋を使う分量しかないので、ビニール袋で十分です。ビニール袋なら重石や天地返しは不要です。そのかわり、仕込んでしばらくはガス抜きが必要です。隙間を開けておいても、何かの拍子に密閉され、麹菌の呼吸で発生した二酸化炭素でビニール袋が膨らみ、風船のようになってしまうことがあるからです。それから天地返しのかわりに、たまに揉んでやる必要があります。
熟成が進むと溜り(液体)が出てくるので、ビニール袋は2重にしてタッパに入れるか、ペーパータオルなどでくるんでレジ袋に入れ、さらに光を通さない紙袋とかに包んで保管します。保管場所は、日光が当たらず、夏は暑くなりすぎないところ、冬は寒くなりすぎないところが理想です。
(8) 熟成
夏に仕込んだ場合、最初の1週間くらいは毎日状況をチェックします。(7)でお話したように、麹菌の呼吸で二酸化炭素が発生してビニール袋が膨らんでくるからです。甕に仕込んだ時に重石をするのは、このガスで味噌が浮き上がってくるのを防ぐためです。ビニール袋に仕込んだ時は、重石をするかわりに、ガス抜きの作業が必要になるわけです。
冬に仕込む場合は発酵が遅くなります。部屋の温度が20℃を越えないようであれば、2〜3日に1度様子を見るぐらいで十分です。みそは冬に仕込むものといいますが、冬の方がゆっくりと発酵が進むので、色々な反応が起こり、みそに複雑な味わいが出てくるということなのでしょう。私も真夏は避けるようにしていますが、タイミング的に暑い時に仕込むことになったら、昼間は冷蔵庫の野菜室に入れて外出します。少ない量で仕込む場合は、このような小回りがききます。
1〜2週間で膨らまなくなりますので、そうなったら、後はたまに思い出したように状況をチェックして、膨らんでいたらガスを抜いてやり、ビニール袋の上から揉んでやります。甕に仕込んだ場合は途中で天地返し(甕の上の部分と下の部分をひっくり返す作業)をする必要がありますが、ビニール袋に仕込んだ場合には、ビニールの上から揉むことが、天地返しのかわりになります。
チェックするときには、たまにみそをなめてみてください。最初の時の味に比べ、まろやかになっていくのがわかります。そして、これはもういける!という味になったら完成です。みそを容器に移し、冷蔵庫に保管すれば、熟成が遅くなり、味が変化しにくくなります。
私はだいたい1回に乾燥麹2袋を使って仕込み、ビニール袋も2袋に分けて熟成させます。1袋分を食べ始めても、もう1袋は容器に移さずそのまま熟成を続けます。1袋目がなくなって、2袋目を食べ始める時にはさらに熟成が進んでいて、1袋目とはまた違った味を楽しむことができます。2袋目を容器に移す時に、その一部を種みそにして、次のみそを仕込むようにしています。
おわりに
手前みその作り方、いかがだったでしょうか。活力鍋がなければ大豆を煮るところで時間がかかるので、大変化もしれません。ですが、ここがクリアできれば、あとは大豆をつぶすのに力がいるくらいで、意外と簡単だと思います。私の活力鍋は20年くらい前のものです。最近の活力鍋は、取手は黒、蓋のてっぺんについている圧力調整のおもりは赤色で、ずいぶんおしゃれになっているようです。今使っているものが蒸気漏れを起こすようになってきたら、また活力鍋を購入したいと考えています。
このマニュアルでコツがつかめたら、色々な麹を試してみたり、越後みそや仙台みそのような熟成に時間がかかる配分にも挑戦したりして、ぜひ、自分好みの手前みそを作り上げていただきたいと思います。市販のみそとは一味違う手前みそが、みなさんの食卓を豊かにしてくれることでしょう。